最高裁判所第一小法廷 昭和35年(あ)821号 判決 1960年9月08日
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人養生昇の上告趣意第一点について、
原判決は第一審判決の窃盗の認定を支持するにあたり「すなわち」右証拠によれば昭和三四年二月二四日午後八時三〇分頃から午後一〇時三〇分頃までの間橋本信一が鈴木重太郎から借り受けて使用していた原判示の自転車が原判示の場所において窃取されたこと、被告人は翌二五日午後三時四〇分頃及び同日午後八時頃自転車に乗っていたが、右午後八時過頃被告人が乗っていたものは本件被害品であること、右自転車は同月二六日同市八幡街所在の西城病院玄関口に置いてあったこと、同病院には当時被告人の母ヨシが入院しており被告人は同病院に寝泊りしていたこと」等の事実を確定しているのであり、以上事実の確定こそは所論判例にいわゆる真実の高度の蓋然性を捉えているのであって、この場合これに加えて要求さるべき何ものも必要としないものと解するを相当とする。従って、原判決は所論判例にいささかも背馳するかどがなく、所論は採用できない。
同第二点について、
しかし、原判決は前示のような訴訟上の証明の法理に従って窃盗を認定し、因ってこれと同趣旨の第一審判決を支持したのであって、被告人に所論犯歴のあることによってしかく認定したのではないことは明文上明瞭である(第一審判決が前科を羅列したのは常習性認定の資料としての意味を有するに過ぎない。)。されば、所論違憲の主張は前提を欠くに帰し採るを得ない。
被告人の上告趣意は違憲をいう点もあるが、実質は事実誤認、単なる法令違反の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
よって同第四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)